第624回ランキング
- 第 1 位 ( ⇒ )
NHK総合・大河ドラマ「花燃ゆ」テーマ音楽 [川井憲次] - 第 2 位 ( △ )
女王蜂「ヴィーナス」
テレビ東京・ドラマ24「怪奇恋愛作戦」オープニング テーマ - 第 3 位 ( ▽ )
鈴木常吉「思ひで」
SBC TBS・ドラマ「深夜食堂3」オープニング曲 - 第 4 位 ( ★ )
NHK BSプレミアム・プレミアムドラマ「昨夜のカレー、明日のパン」オープニング タイトル曲 [阿南亮子]
♪ NHKオンデマンドで視聴した、僅か 30秒で和声を表現している粒立つ様なストリングス佳曲。 - 第 5 位 ( ⇒ )
NBS フジ・ドラマ「ゴーストライター」劇中効果音楽 [眞鍋昭大・笹野芽実・得田真裕・末廣健一郎]
先週は、ドラマ「深夜食堂」について書きましたが、もう 1本 取り上げたいと思います。NHKBSのプレミアムよるドラマ「徒歩7分」です。「植物男子ベランダー」と、同じ深夜時間帯の放送で、実に個性的な面白いドラマでした。生まれて初めて実家を離れ、アパートで一人暮らしを始めた女性の物語なのですが、今までのテレビドラマにない世界観が描かれています。
主役の黒崎依子(田中麗奈)は、32歳 無職の女性です。将来に展望がある訳ではなく、日々をダラダラ過ごしてしまいます。依子は 時間を持て余し、隣室の女・咲江(菜葉菜)の会話や 生活音を盗み聞き(笑)。室内を立ち上がって歩く事もせず匍匐前進(笑)。外出したかと思えば 元カレ(福士誠治)の家に押し掛け、半ばストーカー行為と、どうしょうもない女性なのです。
なんじゃこりゃ(笑)と視ていた その第1話でした。部屋の時計が 夜 11時過ぎを差す頃、依子の口から出てきた鼻歌に強烈な印象を受けたのです(笑)。隣室の盗み聞き と 睡魔が渾然と混じり合いながら「わたしは~なにをしてるんでしょう~」と唄い出したこの鼻歌は、撮影中に田中麗奈が即興で唄ってしまったとしか思えない様に聴こえ始めました。
ところが この鼻歌は、歌詞 と 旋律が妙に計算されている曲だったのです(笑)。私は この様なブログをやっていますから、放送から流れる音楽を大切に、楽器の和音を 聞き取りながら、リストへ反映させる様に努めてきました。その長年培ってきた音楽和声感 と 調性感から、この田中麗奈の鼻歌には、まるでエイリアンに襲撃されたかの様な感じを受けたのです(笑)。
もちろん週間選曲リストには リストインさせませんでしたが(笑)第1話を視てから数日間は、この鼻歌が頭の中から離れず駆け巡っていました(笑)。実は このブログで、ドラマ「白い巨塔」のCMで流れた広末涼子の鼻歌を褒めた事がありました。もう 11年前の話ですが、巡りめぐって今度は、女優・田中麗奈の鼻歌にやられるとは思ってもいませんでした(笑)。
その後 依子を 以前の彼女と勘違いした、田中圭 演ずる誤想ストーカーの田中靖夫 くんに、依子は すっかり気に入られ、なんと下の階の空き室に引っ越してきたり、その誤想ストーカー騒動がきっかけで、盗み聞きしていた隣室の咲枝(菜葉菜)と、仲良くなったりと ストーリーは ゆるく展開していきます。そして鼻唄以上の見せ場(笑)が、第5話にやってきます。
依子が 軽い気持ちで、トイレ前に立て掛けていた卓上テーブルがロック状態になってしまい、依子は トイレに閉じ込められてしまうのです。第5話は、ドラマ史上初とも断言できる(笑)閉じ込められたトイレからの生中継的エピソードです。寒さしのぎに便座シートを首に巻いた依子は(笑)約 1昼夜近く閉じ込められた末、ようやく田中靖夫 くんに事態が伝わります。
田中靖夫 くんがトイレの窓から垂らされた紐に結びつけ、救援で差し入れた唐揚げ弁当を、依子が便器の上で むさぼり食うシーンは、これまた強烈で、久々にドラマを視ながら大笑いしてしまいました。結局 大家さんから鍵を借りてきた、田中靖夫 くん と 咲江に救出されるのですが、恥ずかしさからか「お許しください~」と、またトイレに閉じこもってしまうのです(笑)。
田中圭は、昨年の大河ドラマ「軍師官兵衛」で石田三成 役を演じており、その役とは どんなに回転させても 180度違う(笑)内気でシャイだけど、妙なところで行動力を発揮するストーカーのセンス溢れる(笑)会社員を演じています。ストーカーなのですが(笑)危機管理能力もあり、依子がトイレに閉じ込められているのを、最初に気付いたのは 田中靖夫 くんなのです。
とにかく主役は 田中麗奈で、田中圭が演じる誤想ストーカーの役名は 田中靖夫(笑)。ドラマでは、ふたりの会話から田中 さんとの呼称が飛び交い、劇なのか現実なのか判り難くさせているシナリオの意図も感じます(笑)。そしてドラマが終盤に近付くと、咲江の転居があるのですが、依子の環境に同化した視聴者には、強い喪失感を与えます。実に緻密な筋書きです。
「徒歩7分」の作者である前田司郎は、劇団の主宰者で 手掛けたシナリオが第52回 岸田國士戯曲賞を獲得。小説は 第22回 三島由紀夫賞を受賞し、本人も俳優として第3話に登場しています。私も田中麗奈の鼻唄に代表される(笑)過去のドラマにない、起伏が少ないストーリー構成の中での際立つ台詞回しと、心情に残るシーン形成に、非凡な才能を感じました。
この「徒歩7分」は、プレミアムよるドラマとして、1月 6日から全 8回 に渡って毎週本放送していました。NHKオンデマンドでも配信されていますので、田中麗奈の鼻歌には ご注意の上で(笑)機会がありましたら ご覧頂ければと思います。特に長年 数多くのテレビドラマを視てきて、最近食痛気味の(笑)通な視聴者の皆さんには ぜひお薦めの作品です。
(追記) 作・脚本の前田司郎 氏は、この「徒歩7分」で、第33回 向田邦子賞を受賞しました。