FM長野・NHK-FM リスナーである ラジオネーム:チャート★ドランカーの個人ブログです。
私の 週間選曲リスト と 週間放送視聴日記 を 公開・保存しています。

第649回ランキング

   
  1. 第 1 位 ( ⇒ )
    Natalie Imbruglia “Instant Crush”
  2. 第 2 位 ( ⇒ )
    NHK総合・大河ドラマ「花燃ゆ」テーマ音楽 [川井憲次]
  3. 第 3 位 ( △ )
    Lady Antebllum “Long Stretch Of Love”
  4. 第 4 位 ( ▽ )
    Perfume “Pick Me Up”
    ♪ 1位 4週、登場10週。
  5. 第 5 位 ( ⇒ )
    abn テレ朝・ドラマ「刑事7人」テーマ音楽 及び 劇中効果音楽 [吉川清之]

 私が子供の頃から学生時代にかけて、NHK総合テレビでは「劇場への招待」など演劇公演の録画中継が 盛んに放送されていました。学生の頃は、演劇の良さも解りませんでしたが、既に音楽チャートマニアだった そんな私が、今だに脳裏から離れず忘れ得ない舞台中継と言えば、不世出の喜劇俳優・藤山寛美が主宰していた松竹新喜劇の「お客様お好みリクエスト上演」です。

 幕が上がると 松竹新喜劇 30本の得意演目が、番号付で大きく掲示されています。白のタキシードを着けた藤山寛美が登場し 客席に宣言するのです。 これから お見せする芝居は、この 30本から お客様自身に選んでもらいます。 舞台には、小島秀哉・小島慶四郎・酒井光子などの劇団幹部俳優・女優が、ペンと記録用紙を持っており、藤山寛美の合図で 客席に入ります。

 そして劇団の看板俳優・女優たちが、まるで御用聞きの様に、リクエストを観客に尋ねるのです。観客は大喜びで今 見たい演目を答えます。そして一巡すると、今集めたリクエストを舞台上で集計し、上位 5 ~ 6本の演目に集約していきます。藤山寛美は、その上位演目を客席全体にはかり、拍手の大きさでリクエスト 1位を判定し、上演演目を決めるのです。

 その決まった瞬間からです。松竹新喜劇の大道具さんが舞台に一斉登場して、その芝居のセットを組み始めます。その間 藤山寛美は、マイクを持ったまま舞台に残っています。そしてセットの組み立てを、客席に実況するのです。決定した演目には、どの様なセットが必要か? 夢中で釘を打っている大道具さんは どんな方か? 演劇の苦労話を交えながら、観客に実況していきます。

 藤山寛美は、セットが組み上がり、芝居の幕が開くギリギリの時間まで、その実況を続けます。そして幕が開き、芝居が始まると 藤山寛美は、信じられない早変わりで、芝居の役の扮装で登場します。その瞬間の客席は、割れんばかりの大歓声 と 拍手に包まれるのです。演劇にドキュメンタリーの要素を組み入れた様な、世界的な規模で探しても、今までに類例のない公演でした。

 私が視た舞台中継の時は、時期が年末だった事もあり、決定した演目が「大当り高津の富くじ」でした。江戸時代 放蕩の限りを尽くした、藤山寛美が演じる大店(おおたな)のボンボンが、経営悪化の責任で勘当され、五百両を用意出来なければ、店を人手に渡さなければならないほど追い詰められます。なにか藤山寛美の人生を象徴しているかの様な噺です(笑)。

 その時たった 1枚だけ買っていた富くじが、なんと千両の大当りだったという物語です。これ以上のハッピーエンドは ありません。富くじの大当りを知った時の寛美は、神がかっている名演技で、まるで観客が富くじに当ったかの様な同期 と 爆笑に、万雷の拍手が巻き起こります。お客様お好みリクエスト上演で、この演目を選んだ観客は、大満足だったと思います。

 お客様お好みリクエスト上演は、藤山寛美がラジオのリクエスト番組を聴いていて発想したとの逸話が、後日 伝えられています。なんと 244ヵ月連続公演を続け、楽屋で寝泊まりしていた藤山寛美は、枕元に必ず置くほどラジオが好きでした。別のドキュメンタリー番組では、朝 5時のNHKニュースを聴いて炭鉱事故を知り、すぐさま義援金を送る姿も放送されています。

 ラジオのリクエスト番組とは異なり、舞台で繰り広げる芝居の場合、劇団員全員が 30の芝居の役割・台詞を全部覚えて、総ての大道具・小道具をスタンバイしなければなりません。しかも観客にリクエストを聞き それを舞台で集計し、観客の拍手の大きさでリクエスト 1位を決め、その演目を無条件で上演する手法は、ラジオ チャート番組の本質にも通じていました。

 この「お客様お好みリクエスト上演」に、その後チャレンジした有名劇団は、現在まで ひとつもありません。当時の松竹新喜劇だけが実現しています。不世出の喜劇俳優・藤山寛美は、ラジオのリクエスト番組・チャート番組の本質をも理解して、観客が今 最も見たがっている演目に、完成された上演で即時に答えた、世界でも類例なき偉大な舞台演出家でした。


ブログ開始は 2003年です。

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